市民信託は、英語でいうと、シビル・トラストです。立木トラストや水田トラストなど、市民の大切に思うものをお金を出して支える方法です。おなじように、太陽光発電トラストが、いま、始まっています。
地域の市民がつくる自然エネルギーにふさわしいのが「市民信託」です。
信託とは、簡単に言うと、「目的」のために「信じて託す」ことです。
人間自身が集まると「組合」となります。「組合」を法人化すると、「協同組合」や「会社」となります。
目的を持ったお金だけが束になると、それは「信託」と呼びます。ちなみに、信託を法人化すると「財団法人」となります。たとえば、ノーベルの遺産は目的を持ったお金となり、ノーベル賞の財源となる「信託財産」となっています。これを法人化したのが「ノーベル財団」なのです。
・信託の歴史
歴史的には、信託は主にイギリスで発達した「トラスト(trust)」という制度を基礎にしています。
日本語で「信託」というとピンと来ない人も多いかと思いますが、トラストというとピンと来る人がいるのではないでしょうか。
森林トラストとか、水田トラストなど、ある目的のためにお金を運用者に託す「トラスト運動」が日本でも広がっています。
中世のイギリスでは、十字軍に参加した兵士たちが、出征中の土地などの財産の管理を地域に託したり、国王から土地を没収されたりするのを避けるために教会に寄進する際に用いられたそうです。
イギリスはご存知の通り、制定法ではなくて、判例を積み重ねる「習慣」と「判例」によって制度が作られていくことが多かった国です(成文憲法は今もありません)。
この判例の積み重ねによって、「信託」(trust)というものが作られていったのです。
さて、時は過ぎ、アメリカ合衆国はイギリスの植民地でしたので、この「信託」の制度が受け継がれました。
しかし、長い歴史を持つイギリスとは違い、アメリカを植民したヨーロッパ人たちは、出土も民族も違う人の集まりでもあり、イギリスの民事信託の基礎にあった「地縁」や「血縁」というコミュニティーに根ざした信頼がなかなか醸成されませんでした。
そこで、より事業的な性格の強い「信託会社」というものを作り、有償で法人を基本とする「営業信託」の信託業の制度が広まったのです。南北戦争以後の鉄道建設や遺産相続などでこの信託制度は幅広く活用されてきました。
・市民信託〜ヨーロッパのエネルギー協同組合との親和性
ヨーロッパ、特に北欧のドイツやデンマークでは、「エネルギー協同組合」が地域所有の中小規模の再エネ設備の広がりに大きな役割を果たしました。
実は日本と違い、「協同組合」という一つの制度があり、その中でエネルギー事業を主とする協同組合がいくつも生まれたのです。
日本の場合は、農業協同組合、生活消費者協同組合、信用組合など各協同組合で法律も違い、監督官庁も違い、様々な規制にがんじがらめになっていて、地域所有のエネルギー協同組合を作ることができません。
それに対して、北欧では、市民が申請書を提出するだけで、自由に協同組合が作れますし、事業内容を自由に「エネルギー」などと選べますし、さらに出資のみの出資組合員というのを自己募集することも出来ます。
これは長い間の市民活動によって勝ち取ってきた、ヨーロッパの市民たちの権利であるからです。
それだけではなく、各協同組合のそれぞれを自分たちで監査しあうことによって、監督官庁の介入を避けています。
ドイツなら例えばライファイゼン協会という全国連合会があり、そこに各協同組合が会員になることで、指導やアドバイス、監査を受けることができます。
各組合の健全な経営・運営に寄与しています。
